東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)116号 判決 1992年10月29日
アメリカ合衆国
ニューヨーク州スケネクタディ・リバーロード一番
原告
ゼネラル・エレクトリック・カンパニー
右代表者
アーサー・エム・キング
右訴訟代理人弁護士
山崎行造
同
生田哲郎
同
名越秀夫
同
窪木登志子
同弁理士
安達光雄
同
生沼徳二
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官
麻生渡
右指定代理人
杉原進
同
加藤公清
同
武井英夫
同
田辺秀三
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が昭和六二年審判第五六八四号事件について昭和六三年一月一四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文一、二項と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、一九七六年一二月六日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和五二年一二月五日、名称を「改良された耐破砕性を有する強化熱可塑性ポリエステル組成物」とする発明につき特許出願(同年特許願第一四六五〇〇号)をしたが、昭和六一年一一月一九日に拒絶査定を受けたので、昭和六二年四月一〇日、審判を請求した。特許庁は、右請求を昭和六二年審判第五六八四号事件として審理した結果、昭和六三年一月一四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として九〇日を附加)との審決をした。
二 特許請求の範囲第一項の発明(以下「本願発明」という。)の要旨
(a)高分子量ポリエステル樹脂 および(b)(ⅰ)マイカ、タルクまたはそれらの混合物からなる鉱物質強化充填剤およびこれらと組合せた(ⅱ)ガラス繊維からなる強化剤を含み、上記強化剤(b)が(a)と(b)の合計重量を基にして、五~六〇重量%の鉱物質強化充填剤および二~六〇重量%のガラス繊維とからなることを特徴とする強化された耐破砕性熱可塑性樹脂組成物。
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
2 本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭五〇-九〇六四九号公報(以下「引用例」という。)には、飽和ポリエステル(A)二五ないし六〇重量%及び充填剤(B)四〇ないし七五重量%よりなる飽和ポリエステル組成物において、該(B)成分が全組成物当たり一〇ないし三〇重量%のガラス繊維(a)、一〇ないし四〇重量%のベータメタけい酸カルシウム(b)及び五ないし三〇重量%の一般式
X1Al2O3・X2MgO・X3K2O・YSiO2・ZH2O
(但し、式中X1、X2及びX3は0ないし3の数、Yは0ないし6の数、Zは0又は正数であり、且つX1=X2=X3=Y=0でZ≠0の場合及びX1=X2=Z=0の場合を除く。)
で示される無機塩(c)の一種又は二種以上よりなることを特徴とする強化された飽和ポリエステル組成物が記載され、更に、該無機塩(c)の具体例として雲母すなわちマイカやタルクが挙げられ、これの一種又は二種が用いられること(引用例第三頁右上欄ないし左下欄)、ベータメタけい酸カルシウム(b)は飽和ポリエステルの成形性を向上せしめる機能を有し、しかも得られる組成物の機械的強度を低下させないこと(同第三頁左上欄)、ガラス繊維(a)は強化剤として働き、該飽和ポリエステル組成物は加熱押出し成形が可能つまり熱可塑性であって、これから得られる成形品は優れた機械的性質すなわち曲げ強度、曲げ弾性率及び衝撃強度(アイゾットノッチ付)を有すること(同第一頁右下欄及び第四頁)がそれぞれ記載されている。
3 そこで、本願発明と引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)とを対比すると、本願発明にいう高分子量ポリエステル樹脂は引用発明における飽和ポリエステルに相当することは自明であり、マイカやタルクを強化充填剤というか、単に充填剤というか、また、これらとガラス繊維との組合せを強化剤というか、充填剤というかは、単なる表現上の相違にすぎないものであり、更に衝撃強度はアイゾットノッチ付であれノッチ無であれ、耐破砕性の測度であることに変わりはないから結局、両発明は、(a)高分子量ポリエステル樹脂;及び(b)(ⅰ)マイカ、タルク又はそれらの混合物からなる鉱物質強化充填剤及びこれらと組合せた(ⅱ)ガラス繊維からなる強化剤を含み、前記強化剤(b)が(a)と(b)との合計重量を基にして、五ないし三〇重量%の鉱物質強化充填剤及び一〇ないし三〇重量%のガラス繊維とからなることを特徴とする強化された耐破砕性熱可塑性樹脂組成物である点で完全に一致し、引用発明が、更に他の配合成分としてベータメタけい酸カルシウムを含むものであるのに対し、本願発明がこの点を特に明示しない点でわずかに相違する。
4 次に、この相違点を検討する。
本願発明は、その「(a)高分子量ポリエステル樹脂 および(b)(ⅰ)マイカ、タルクまたはそれらの混合物からなる鉱物質強化充填剤およびこれらと組合せた(ⅱ)ガラス繊維からなる強化剤を含み」という文言及び明細書第一一頁の「他の成分例えば難燃剤、難滴下剤、顔料、染料、安定剤、可塑剤等も含有できる。」との記載からみて、前記(b)の(ⅰ)及び(ⅱ)以外の他の添加剤を配合することを排除するものではない。してみれば、引用発明が、前記のように、ポリエステル樹脂の成形性を向上させ、得られる組成物つまり成形品の機械的強度を低下させないたあにベータメタけい酸カルシウムを配合する点を必須の要件としていても、この相違点をもって両発明を区別することはできない。
5 したがって、本願発明は、引用発明と実質上同一であって、特許法第二九条第一項第三号に該当し特許を受けることができない。
四 審決の取消事由
審決の理由の要点1、2は認める。同3のうち、衝撃強度はアイゾットノッチ付であれノッチ無であれ耐破砕性の測度であることに変わりはないとの点は否認し、その余は認める。同4のうち、引用発明が、ポリエステル樹脂の成形性を向上させ、得られる組成物つまり成形品の機械的強度を低下させないためにベータメタけい酸カルシウムを配合する点を必須の要件としていても、この相違点をもって両発明を区別することはできないとの点は否認し、その余は認める。同5は争う。
審決は、本願発明の技術内容を誤認し、その結果、本願発明と引用発明とは実質上同一であると誤って認定、判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、審決は、本願発明が任意成分としてベータメタけい酸カルシウムを配合することを排除していないことを前提として、これを必須の成分とする引用発明と実質上同一であるとしているのであるが、以下述べるとおり、本願発明は、任意成分としてベータメタけい酸カルシウムを配合することを排除しているから、右認定、判断は誤りである。
1 本願の特許願書(甲第二号証)に添付の明細書(以下「本願明細書」という。)には、「鉱物質は各種重合体を改変し、強化するために普通に使用されている。例えばシリカ(無定形または結晶質)、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、タルク等の如き鉱物質は、靱性、耐熱性、強度を増強させるため、および収縮を減少させるため、および高価な重合体の原価を低下させるため、熱可塑性重合体に加えられている。しかしながらかかる鉱物質/重合体複合物の大きな欠点は、成形された部品が一般に脆性を示し、従って非強化重合体が本来強靱であるにも拘らず、急激な衝撃負荷を受けたときかかる部品が驚くべき破砕を受ける傾向があることにある。(中略)タルクまたはマイカで強化された高分子量ポリエステルの熱可塑性樹脂組成物中にガラス繊維を使用するとかかる組成物からなる成形品の耐破砕性を著しく改良しうることをここに見出した。更に他の性質例えば引張り強さ、延び、弾性、衝撃強さおよび加熱撓み温度の改良も得られる。」(第四頁一三行ないし第六頁五行)と記載されている。
本願明細書の右記載から明らかなように、メタけい酸カルシウムは鉱物質の一種であり、各種重合体を改良する強化剤として知られていて、各種重合体に添加すると、タルク、マイカ等と同様に重合体の靱性、耐熱性、強度を増加させたり、収縮を減少させたり、また、高価な重合体の原価を低下させたりするものであるが、メタけい酸カルシウムと重合体の複合物は脆くなる欠点があった。そこで、原告は、このような鉱物質強化充填剤を各種重合体に混合した場合にもたらされる利点を生かしつつ、耐破砕性が低下するという欠点が生じないようにすることが可能かどうかという問題意識に立ち、重合体の改質強化剤として知られた各種鉱物質のうちからマイカ、タルク、又は両者の混合物のみを選択して用いることによってポリエステル組成物の耐破砕性を改良し得るという知見に基づいて本願発明を想到するに至ったものである。
本願発明において、鉱物質の改質強化剤をタルク、マイカに限定したことは、前記記載の他、特許請求の範囲の記載及び本願明細書中の「成分(b)の鉱物質充填剤の選択はタルク、マイカまたはそれらの混合物に限定される」(第一〇頁一六行、一七行)との記載からも明らかである。
確かに、本願明細書には、「他の成分例えば難燃剤、難滴下剤、顔料、染料、安定剤、可塑剤等も含有できる。」と記載されているが、タルク、マイカと同じく耐破砕性を低下させる鉱物質強化充填剤であり、しかも、原告もそのように認識していたベータメタけい酸カルシウムを、本願発明の組成物に任意成分として更に添加するということは、本願発明の出願時に原告が、鉱物質強化充填剤をタルク、マイカに限定した以上考えられないことであるし、しかも、引用発明におけるベータメタけい酸カルシウムの添加量である全組成物当たり一〇ないし四〇重量%もの量を任意成分として本願発明の組成物に更に添加すれば、本願発明の組成物の基本的性格を著しく変化させ、本願発明が最適として確定した必須成分の配合割合をも根本から覆すことになるのであって、このことからいっても、本願発明が、ベータメタけい酸カルシウムを任意成分として配合することを積極的に排除していることは明らかである。
2 本願発明の組成物に更にベータメタけい酸カルシウムが配合された場合には、本願発明の目的であると共に特許請求の範囲に組成物の性質として規定された耐破砕性が得られないことは、甲第七、第八号証記載の実験結果によっても明らかであり、このことからいっても、本願発明においては、この成分が存在してはならないのである。
甲第七号証記載の実験データ(別紙第1表)及び同第八号証記載の実験データ(別紙第2表)によれば、鉱物質強化充填剤であるマイカにベータメタけい酸カルシウムを加えると耐破砕性が悪くなり、ベータメタけい酸カルシウムの添加量が増加すると耐破砕性が更に悪くなり、これからマイカを除去すると耐破砕性が最も悪くなること、一方、ベータメタけい酸カルシウムを添加しない場合には耐破砕性が一段と高くなっていることが明らかである。
被告は、本願発明による耐破砕性の達成効果は、耐破砕性を示す尺度として本願明細書に記載され、かつ技術的にも確立されたアイゾット式衝撃試験によるアイゾット衝撃強度をもって評価されるべきであり、甲第七、第八号証において採用されている試験方法及びE(tot)対E(max)の比率による評価はいずれも本願明細書に開示されていない以上採用されるべきではない旨主張する。
被告の右主張は、審決がいう「衝撃強度はアイゾットノッチ付であれノッチ無であれ耐破砕性の測度であることに変わりはない」という点を前提とするものであるところ、本願明細書には、実施例の各組成物について「ノッチ付アイゾット衝撃強さ」と「ノッチ無アイゾット衝撃強さ」の測定結果が記載されているが、同明細書では、耐破砕性と衝撃強さ(耐衝撃性)とが区別して扱われており、「ノッチ無アイゾット衝撃強さ」は耐破砕性の測度であるが、「ノッチ付アイゾット衝撃強さ」は耐破砕性の測度ではなく、衝撃強度の測度であるから、審決の右説示は誤りであり、本願明細書記載のアイゾット式衝撃試験によっては、本願発明の耐破砕性の達成効果を十分に評価することはできない。
ところで、本件出願の優先権主張日の属する一九七六年当時において耐破砕性の試験方法として認められていたアイゾット式衝撃試験が、その後、その精度において必ずしも実用的に十分といえるものでないことが明らかとなり、ダート落下による試験方法が耐破砕性を一層正確に示すものであることが明らかになったのであるから、甲第七、第八号証記載の実験が、ダート落下試験の代表的なものであるダイナタップ衝撃試験方法を採用したことは極めて合理的なことであって、被告の右主張は理由がない。
また、被告は、甲第七、第八号証記載の実験結果は実験データに不備があるから、ベータメタけい酸カルシウムを配合しない組成物とこれを一〇ないし四〇重量%配合した引用発明の耐破砕性を示すべき実験データとして採用し得ないものである旨主張するが、右主張は次のとおり理由がない。
(1) 実験に使用したポリブチレンテレフタレートの粘度についてであるが、この成分の二五〇℃における溶融粘度は一・一〇〇ポイズ(固有粘度に換算すると、〇・七三dl/g)である。実験に用いたガラス繊維は二種の長さのものを使用しており、一つは八分の一インチ(約三・二ミリ)、もう一つは一六分の三インチ(約四・八ミリ)の長さのものであった。右のとおり、本願明細書記載の粘度や長さを有するものが使用されているのであるから、実験に必要な範囲の特定はなされている。
(2) 実験で使用したポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートのみであるという点であるが、高分子量ポリエステル樹脂の典型的なものであるポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートが同様の実験結果を示すことは容易に推測可能である。
(3) 鉱物質強化充填剤としてタルクのみを用いた場合の実験は行っていないが、本願明細書中には、タルクのみを配合した場合の実施例が記載されており、ノッチ無アイゾット衝撃強さにおいて、マイカのみを配合した場合に比して多少劣るとはいえ、実質的には大差がないことが示されているから、タルクのみを用いた実験を行わなかったことが不備であるとはいえない。
(4) 甲第七号証記載の実験の比較組成物の点であるが、典型的な配合組成でその効果が明確であるときは、実験データとしては同号証記載の程度のもので十分である。
更に、被告は、アイゾット衝撃強度をもって耐破砕性を評価している引用例において、ベータメタけい酸カルシウムを配合した場合でも耐破砕性の効果が得られることが明記されている旨主張するが、引用例に記載されているアイゾット衝撃強度は「アイゾットノッチ付」のものであって、耐破砕性の測度ではないから、右主張は理由がないものというべきである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四は争う(但し、本願明細書に原告主張の記載があることは認める。)。審決の認定、判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法はない。
1 本願発明の組成物が、特許請求の範囲記載の必須成分たる(b)(ⅰ)成分のマイカ、タルクまたはそれらの混合物からなる鉱物質強化充填剤と(b)(ⅱ)成分のガラス繊維とからなる強化剤以外に他の任意成分を含有できることは、本願明細書から明らかである。そして、本願発明の特許請求の範囲においては、必須の配合成分が限定されているだけであって、任意成分としてベータメタけい酸カルシウムを含有することを排除していないから、本願発明の組成物がベータメタけい酸カルシウムを含有する場合もあることは当然であり、この場合には、本願発明と引用発明とは何ら区別することができないのである。
ところで、本願発明のような、ガラス繊維を配合して強化した高分子量ポリエステル樹脂組成物に、<1>その溶融時の流動性や、それから得られる成形物の表面光沢性及び機械的等方性を良好にするため、<2>成形物の引張り強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率等の機械的強度を良好にするため、及び<3>成形物の電気的特性たるアーク及び軌道抵抗性を良好にするために、それぞれ、更にけい酸カルシウムを一〇ないし四〇重量%配合すること、つまり、けい酸カルシウムをこれら諸性質の改善剤として右組成物に右の量添加配合することは、本願の優先権主張日前に当業界において通常行われていたことである。
してみれば、けい酸カルシウムは、本願明細書において、ガラス繊維を配合して強化した本願発明の高分子量ポリエステル樹脂組成物に対して、必要に応じて任意に配合しても良いとされる難燃剤、難滴下剤、顔料、染料、安定剤、可塑剤等のいわゆる改質剤の一種に相当する。
そして、引用発明の組成物におけるベータメタけい酸カルシウムもまさにこのような、ガラス繊維を配合して強化した高分子量ポリエステル樹脂組成物の改質剤として配合されているものであって、具体的には、溶融時の流動性、均一充填性等の成形性の向上剤として使用されているものである。
したがって、本願発明の組成物においても、ガラス繊維の配合による強化と併せて前記<1>ないし<3>の諸性質の改善や成形性の向上を考慮する場合、改質剤として更にベータメタけい酸カルシウムを一〇ないし四〇重量%配合することが当然あり、このことは何ら妨げられていないのである。そして、この場合には、本願発明の組成物と引用発明のそれとは何ら区別することができないのであるから、両発明は同一である。
2 原告は、本願明細書の記載を引用して、本願発明ではベータメタけい酸カルシウムの使用を積極的に排除している旨主張しているが、右主張は次のとおり理由がない。
本願明細書中の「各種重合体を改変し強化するために普通に使用されているシリカ、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、タルク等の鉱物質は、成形部品に一般に脆性を与え、該部品が急激な衝撃負荷を受けたとき破砕する傾向がある」旨の記載は、メタけい酸カルシウムやタルクを各種重合体に対して、ガラス繊維を併用せずに各単独で加える場合の欠点について述べたものにすぎず、しかも、重合体を高分子量ポリエステル樹脂に特定した上で述べたものでもなく、また、右記載は、本願明細書中の「本発明の組成物はガラス繊維を含有しない相当する鉱物質強化したポリエステルと比較して改良された耐破砕性を有する。」(第四頁七行ないし九行)との記載からも明らかなように、ガラス繊維を併用することによって初めて、マイカやタルクを配合した高分子量ポリエステル樹脂成形品の耐破砕性等が改善されることを単に述べたものであるから、両記載の存在は、高分子量ポリエステル樹脂に対してマイカやタルクをガラス繊維と併用して加える場合に、更にメタけい酸カルシウムを配合することを排除する理由とはなり得ないものである。なお、前記記載によると、タルクもまたメタけい酸カルシウムと同様、成形品に脆性を与え、好ましくないというのであるから、原告の主張が正しいとすれば、本願発明では、その必須成分たるタルクを配合することさえ排除することになり、本願発明の要旨と矛盾する。
次に、本願明細書中の「成分(b)の鉱物質充填剤の選択はタルク、マイカまたはそれらの混合物に限定される」との記載は、特許請求の範囲の「(b)(ⅰ)マイカ、タルクまたはそれらの混合物からなる鉱物質強化充填剤」という要件についての詳細な説明にすぎず、右各記載は、必須成分たる(b)(ⅰ)成分についての記述であって、必須成分としての(b)(ⅰ)の鉱物質強化充填剤がマイカ、タルクまたはそれらの混合物であること、ないしは(b)(ⅰ)の鉱物質強化充填剤としてマイカ、タルクまたはそれらの混合物が必須であることを述べたにとどまり、任意成分として鉱物質たるメタけい酸カルシウムを排除する理由とはなり得ないものである。
3 原告は、メタけい酸カルシウムを使用すると本願発明の効果が得られないことは甲第七号、第八号証によっても明らかであり、このことからいっても、本願発明においては右成分の使用は考えられないと主張している。
しかし、本願発明にいう耐破砕性の達成効果は、耐破砕性の尺度として本願明細書に記載され、かつ技術的にも確立されたアイゾット式衝撃試験によるアイゾット衝撃強度をもって評価されるべきであって、甲第七、第八号証において採用されている実験方法及び原告が本願発明にいう耐破砕性を示すと主張するE(tot)対E(max)の比率による評価は、いずれも本願明細書に全く開示されていない以上、採用すべき理由はない。
仮に、右の実験方法及び評価が採用されるとしても、甲第七、第八号証記載の実験結果は、実験データに次のような不備があり、ベータメタけい酸カルシウムを配合しない組成物とこれを一〇ないし四〇重量%配合した引用発明の耐破砕性を示すべき実験データとして採用し得ないものである。
(1) 使用したポリブチレンテレフタレートの粘度、ガラス繊維の長さ等の実験上必要な条件が不明であって、実験自体が特定できない。
(2) 本願発明に使用する高分子量ポリエステル樹脂はポリブチレンテレフタレートに限定されるものでないところ、この実験で使用したポリエステル樹脂はポリブチレンテレフタレートのみであるから、他のポリエステル樹脂を使用した場合についての結果が、この実験データからは不明である。
(3) 本願発明の(b)(ⅰ)の成分にいう鉱物質強化充填剤としてタルクのみを使用した場合についての結果が、この実験データからは不明である。
(4) 引用発明の組成物は、ガラス繊維の配合量が一〇ないし三〇重量%、ベータメタけい酸カルシウムの配合量が一〇ないし四〇重量%であるのに、甲第七号証記載の実験の比較組成物としては、ガラス繊維の配合量が一一重量%、ベータメタけい酸カルシウムの配合量が一五重量%及び二五重量%のものしか挙げられておらず、他の配合組成を採用した場合についての結果は、この実験データからは不明である。
したがって、甲第七、第八号証からは、ベータメタけい酸カルシウムを配合した場合には耐破砕性の効果が得られないとは到底いうことができず、一方、本願明細書におけると同じく、耐破砕性をアイゾット衝撃強度をもって評価している引用例の記載によれば、これを配合した場合にも右効果が得られることが明らかである。そして、アイゾット式衝撃試験は、ノッチ(切込み)を入れ(ノッチ付)又は入れない(ノッチ無)で行われるが、これによる測定値であるアイゾット衝撃強度は、ノッチ付であれノッチ無であれ、右のように、材料の脆さないし粘り強さの度合いや衝撃破壊に耐える度合いを示すのである(したがって、衝撃強度はアイゾットノッチ付であれノッチ無であれ耐破砕性の測度であることに変わりはないとした審決の認定に誤りはない。)。
第四 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の当否について検討する。
1 引用例に審決認定の技術事項が記載されていること、本願発明と引用発明は、(a)高分子量ポリエステル樹脂 及び(b)(ⅰ)マイカ、タルク又はそれらの混合物からなる鉱物質強化充填剤及びこれらと組合わせた(ⅱ)ガラス繊維からなる強化剤を含み、前記(b)が(a)と(b)との合計重量を基にして、五ないし三〇重量%の鉱物質強化充填剤及び一〇ないし三〇重量%のガラス繊維とからなることを特徴とする強化された耐破砕性熱可塑性樹脂組成物である点で一致していることは、当事者間に争いがない。
原告は、本願発明は引用発明において必須の構成成分とされているベータメタけい酸カルシウムを任意成分として配合することを排除している旨主張するので、以下、この点について検討する。
2 本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(本願の特許願書)、第三号証(昭和六一年一〇月三日付け手続補正書)及び第四号証(昭和六二年五月八日付け手続補正書)によれば、シリカ、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、タルク等の鉱物質は、靭性、耐熱性、強度を増強させたり、収縮を減少させるため、また、高価な重合体の原価を低下させるために熱可塑性重合体に加えられているが、鉱物質/重合体複合物は、成形された部品が一般に脆性を示し、非強化重合体が本来強靱であるにも拘らず、急激な衝撃負荷を受けたときに驚くべき破砕を受ける傾向があるという欠点があること、本願発明は、高分子量ポリエステル樹脂の耐破砕性を改良することを目的とするものであって、本願発明の要旨のとおりの成分構成を採択し、タルク又はマイカで強化された高分子量ポリエステルの熱可塑性樹脂組成物中にガラス繊維を使用することにより、右組成物からなる成形品の耐破砕性を改良したものであること、更に、本願発明は、延び、弾性、衝撃強さ及び加熱撓み温度の改良も得られるものであること(本願明細書第四頁一三行ないし第六頁五行)が認められる。
ところで、本願発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、強化された耐破砕性を有するものであるという性質についての限定はあるものの、その程度については具体的に規定されているわけではなく、「ガラス繊維を含有しない相当する鉱物質強化したポリエステルと比較して改良された耐破砕性を有する。」(同第四頁七行ないし九行)程度のものであると認められる。一方、引用例には、ベータメタけい酸カルシウム(b)は飽和ポリエステルの成形性を向上せしめる機能を有し、しかも得られる組成物の機械的強度を低下させないこと、ガラス繊維(a)は強化剤として働き、該飽和ポリエステル組成物は加熱押出し成形が可能であって、これから得られる成形品は優れた機械的性質すなわち曲げ強度、曲げ弾性率及び衝撃強度(アイゾットノッチ付)を有することがそれぞれ記載されており、引用発明も強化された耐破砕性を有する熱可塑性樹脂組成物であることは当事者間に争いがないから、組成物が耐破砕性を有するという点では本願発明も引用発明も特に差異はないものというべきである。
3(一) 本願発明の特許請求の範囲には、「(a)高分子量ポリエステル樹脂 および(b)(ⅰ)マイカ、タルクまたはそれらの混合物からなる鉱物質強化充填剤およびこれらと組合わせた(ⅱ)ガラス繊維からなる強化剤を含み」という文言があり、本願明細書の第一三頁には「他の成分例えば難燃剤、難滴下剤、顔料、染料、安定剤、可塑剤等も含有できる。」との記載があって、本願発明は、右(b)の(ⅰ)及び(ⅱ)以外の他の添加剤を配合することを排除するものでないことは、当事者間に争いがない。
(二) 前記のとおり、引用発明においては、飽和ポリエステルの成形性を向上せしめる機能を有し、しかも得られる組成物の機械的強度を低下させないものとしてベータメタけい酸カルシウム(b)が一〇ないし四〇重量%配合されているが、更に、成立に争いのない乙第二号証の一(特開昭四七-二二四四二号公報)には、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂にガラス繊維を補強材として添加することにより生ずる溶融樹脂の流動性、得られた成形物の表面の光沢性及び機械的等方性を良好にするために、ガラス繊維に対して一〇ないし八〇重量%の結晶性けい酸カルシウムを配合することが記載されていること(第一頁左下欄一七行ないし右下欄一九行)、同じく乙第八号証(特開昭五一-一二七一五〇号公報)には、ガラス繊維を配合して強化した高分子量ポリエステル樹脂組成物に対して、必要に応じてそのアーク及び軌道抵抗性を改良するために、ウオラストナイト(ベータメタけい酸カルシウム)を任意成分として配合することが記載されていること(第四頁右上欄一〇行ないし左下欄一行)がそれぞれ認められる。これらの事実によれば、ガラス繊維を配合して強化した高分子量ポリエステル樹脂組成物に、成形性の向上を図るため、あるいは溶融樹脂の流動性や成形物の表面光沢性及び機械的等方性を良好にするため、あるいは成形物の電気的特性であるアーク及び軌道抵抗性を良好にするためにけい酸カルシウムを用いる技術は、本願の優先権主張日当時当業界において普通に行われていたものであり、けい酸カルシウムは、本願明細書において、本願発明の組成物に対して更に任意に含有させることができるとされている改質剤の一種であると認めるのが相当である。
(三) 前掲甲第二ないし第四号証には、本願発明はベータメタけい酸カルシウムを任意成分として配合することを排除している旨の明確な記載はないことが認められる。
(四) 右(一)ないし(三)によれば、本願発明の組成物においても、ガラス繊維の配合による強化と併せて、成形性の向上や前記(二)記載の点の改善を図ろうとする場合には、改質剤として、更にベータメタけい酸カルシウムを配合することは当然あり得ることであり、本願発明において、このことは何ら妨げられていないものというべきである。そして、引用発明や乙第二号証の前記記載内容に照らすと、本願発明の組成物にベータメタけい酸カルシウムを任意成分として配合する場合、本願発明の組成物の性質である耐破砕性を損なわない限度で、しかも成形性の向上や前記(二)記載の点の改善を図るには、引用発明と同程度の一〇ないし四〇重量%程度のベータメタけい酸カルシウムを配合することが有用であると認められる。
しかして、本願発明の組成物に右量のベータメタけい酸カルシウムを配合した場合には、引用発明の組成物と何ら区別することができないことは明らかである。
4 原告は、本願発明が任意成分としてベータメタけい酸カルシウムを配合することを排除していることの根拠の一つとして、本願明細書中の「鉱物質は各種重合体を改変し、強化するために普通に使用されている。例えばシリカ(無定形または結晶質)、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、タルク等の如き鉱物質は、靱性、耐熱性、強度を増強させるため、および収縮を減少させるため、および高価な重合体の原価を低下させるため、熱可塑性重合体に加えられている。しかしながらかかる鉱物質/重合体複合物の大きな欠点は、成形された部品が一般に脆弱を示し、従って非強化重合体が本来強靱であるにも拘らず、急激な衝撃負荷を受けたときかかる部品が驚くべき破砕を受ける傾向があることにある。(中略)タルクまたはマイカで強化された高分子量ポリエステルの熱可塑性樹脂組成物中にガラス繊維を使用するとかかる組成物からなる成形品の耐破砕性を著しく改良しうることをここに見出した。更に他の性質例えば引張り強さ、延び、弾性、衝撃強さおよび加熱撓み温度の改良も得られる。」との記載(本願明細書第四頁一三行ないし第六頁五行にこの記載があることは当事者間に争いがない。)を引用している。
しかし、右記載の前段部分は、メタけい酸カルシウムやタルク等の鉱物質を、ガラス繊維を使用することなく、各種重合体に対し単独で加えた場合の欠点を述べたものにすぎず、本願発明の組成物のようなガラス繊維を含む組成物に右の鉱物質を加えた場合について言及しているものではなく、また、後段部分は、ガラス繊維を使用することによって、マイカやタルクを配合した高分子量ポリエステル樹脂成形品の耐破砕性等が改善されることを単に述べたものである。したがって、右記載が、高分子量ポリエステル樹脂に対してマイカやタルクをガラス繊維と併用して加える本願発明が任意成分としてベータメタけい酸カルシウムを配合することを排除していることを根拠づけるものとなり得ないことは明らかである。
また、原告は、本願発明において、鉱物質の改質強化剤をタルク、マイカに限定したことは、特許請求の範囲の記載及び本願明細書中の「成分(b)の鉱物質充填剤の選択はタルク、マイカまたはそれらの混合物に限定される」との記載(本願明細書第一〇頁一六行、一七行にこの記載があることは当事者間に争いがない。)からも明らかである旨主張する。
しかし、前掲甲第二号証によれば、本願明細書中の右記載は、特許請求の範囲の記載における「(b)(ⅰ)マイカ、タルクまたはそれらの混合物からなる鉱物質強化充填材」という要件についての詳細な説明であると認めることができるから、右記載は、本願発明が任意成分としてベータメタけい酸カルシウムを配合することを排除していることを理由づけるものとはなり得ない。
したがって、請求の原因四項1の主張は理由がない。
5 次に、原告は、本願発明の組成物に更にベータメタけい酸カルシウムを配合した場合には、本願発明の目的であると共に特許請求の範囲に組成物の性質として規定されている耐破砕性が得られないことは、甲第七、第八号証記載の実験結果によっても明らかであり、このことからいっても、本願発明においては、右成分は存在してはならないものである旨主張するが(請求の原因四項2)、以下述べるとおり、右主張は理由がない。
(一) 成立に争いのない甲第七、第八号証(いずれも宣誓供述書)によれば、右各号証に記載されている実験データ(別紙第1表、第2表)はダイナタップ衝撃試験によるものであることが認められる。
ところで、前掲甲第二、第四号証によれば、本願発明の組成物の耐破砕性はアイゾット式衝撃試験によるアイゾット衝撃強度をいうものと認められ、また、成立に争いのない乙第一号証の一・三・四(「実用プラスチック用語辞典」・昭和四二年一〇月二〇日発行)によれば、アイゾット式衝撃試験は、本願の優先権主張日当時において耐破砕性の試験方法として確立されていた技術であると認められるから、本願発明の組成物にベータメタけい酸カルシウムを配合したものと配合しないものとの耐破砕性の比較評価は、アイゾット式衝撃試験による衝撃強度をもって評価すべきであって、本願明細書に開示されていない前記ダイナタップ衝撃試験による実験結果によって評価することは必ずしも相当とはいえない。
この点に関して、原告は、本願明細書では、耐破砕性と衝撃強さ(耐衝撃性)とが区別して扱われており、「ノッチ無アイゾット衝撃強さ」は耐破砕性の測度であるが、「ノッチ付アイゾット衝撃強さ」は耐破砕性の測度ではなく、衝撃強度の測度であるから、本願明細書記載のアイゾット式衝撃試験によっては、本願発明による耐破砕性の達成効果を十分に評価することはできない旨主張する。
本願明細書には、「特に本発明は・・・改良された耐破砕性を有する。更に本発明組成物では・・・衝撃強さ、・・・も得られる。」(第四頁二行ないし第六頁五行)、「タルクまたはマイカで強化された・・・耐破砕性を著しく改良しうることをここに見出した。更に他の性質・・・衝撃強さ・・・の改良も得られる。」(第五頁一六行ないし第六頁五行)との各記載があり、本願明細書では、耐破砕性と衝撃強さという用語が区別して用いられている。
しかし、本願明細書には、耐破砕性と衝撃強さとの内容的差異についての説明はないこと、本願明細書に、本願発明の実施品の脆性についての試験項目として掲げられているのは「ノッチ付アイゾット衝撃強さ」と「ノッチ無アイゾット衝撃強さ」のみであって、「耐破砕性」という試験項目はないこと、耐破砕性の大きいものは耐衝撃性も大きく、また、耐衝撃性の大きいものは耐破砕性も大きいという関係にあるといって差し支えないから、耐破砕性と衝撃強さ(耐衝撃性)とが明確に区別できる関係にあるとは考えられず、共に材料の脆性に関するものであるという点では本質的に異なるものではないことからすると、本願明細書において耐破砕性と衝撃強さという用語が区別して用いられているからといって、少なくとも本願明細書記載のアイゾット式衝撃試験によって本願発明の組成物の耐破砕性の達成効果を評価することは何ら妨げられないものというべきである。
次に、前掲乙第一号証の一・三・四によれば、アイゾット式衝撃試験が材料の脆性を判定するためのものであり、これには、ノッチ無とノッチ付の両方の試験方法があることは、本願の優先権主張日当時の技術常識であることが認められ、このことに照らしても、「ノッチ無アイゾット衝撃強さ」、「ノッチ付アイゾット衝撃強さ」のいずれもが耐破砕性の測度であることは明らかである。なお、前掲甲第四号証によれば、本願発明の実施例の説明に「ノッチ無アイゾット衝撃強さ(これは耐破砕性の測度である)」(同号証の第三頁一六行、一七行)という記載があることが認められるが、右記載は、単にノッチ無アイゾット衝撃強さが耐破砕性の測度であることを注意的に述べたにすぎないものと解するのが相当であり、右記載から逆に、「ノッチ付アイゾット衝撃強さ」は耐破砕性の測度ではなく、耐衝撃性の測度であると解することはできない。
したがって、「衝撃強度はアイゾットノッチ付であれノッチ無であれ耐破砕性の測度であることに変わりはない」とした審決の認定に誤りはなく、原告の前記主張は理由がない。
(二) ところで、本願発明の組成物の性質である耐破砕性については、その程度が具体的に規定されているわけではないところ、ベータメタけい酸カルシウム以外の成分構成においては本願発明の組成物と一致する引用発明の組成物に右成分を配合しても耐破砕性を有していることは、前記2に記載のとおりである。
そして、前記のとおり、甲第七、第八号証記載の実験データに基づいて、本願発明の組成物にベータメタけい酸カルシウムを配合したものと配合しないものとの耐破砕性の比較評価をすることは必ずしも相当ではないが、右実験データによっても、ベータメタけい酸カルシウムを配合していない別紙第1表記載の組成物1、別紙第2表記載の組成物のE(tot)対E(max)の各比率は、一・六七、一・四四であるのに対し、右成分を一五重量%配合した別紙第1表記載の比較組成物4の右比率は一・三〇であって、格段の差異はないことが認められる。そして、ベータメタけい酸カルシウムの配合量を引用発明の組成物における同成分配合量の下限値である一〇重量%とした場合のE(tot)対E(max)の比率は、別紙第1表記載の組成物1及び別紙第2表記載の組成物の右各比率に更に接近するものと推測される。
右のとおり、本願発明の組成物にベータメタけい酸カルシウムを配合しないものの耐破砕性が、右成分を配合したもののそれよりも顕著に優れているということはできず、したがって、耐破砕性の程度という点に関しては、本願発明の組成物と引用発明の組成物との間に格別の差異があるということもできない。
したがって、本願発明の組成物に更にベータメタけい酸カルシウムを配合した場合には、本願発明の目的であると共に特許請求の範囲に組成物の性質として規定されている耐破砕性が得られず、このことからいっても、本願発明においては右成分が存在してはならない旨の原告の主張は理由がない。
6 以上のとおりであって、本願発明は引用例と実質上同一であるとした審決の認定、判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
三 よって、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、一五八条二項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 田中信義)
別紙
第1表
比較組成物
成分 重量% 1 2 3 4 5 6
ポリブチレンテレフタレート(PBT) 79 64 64 64 64 54
ガラス繊維 11 11 26 11 11 11
マイカ 10 25 10 10 0 10
ウォラストナイト 0 0 0 15 25 25
ダイナタップ衝撃
E(max)、フィート・ポンド 0.79 0.50 0.93 1.35 0.34 1.90
E(tot)、フィート・ポンド 1.32 2.25 4.25 1.75 0.37 2.30
E(tot)対E(max)の比率 1.67 4.50 4.57 1.30 1.09 1.21
第2表
組成(重量%による)
ポリブチレンテレフタレート(PBT) 64
ガラス繊維 11
マイカ 10
タルク 15
ダイナタップ衝撃値
E(max)フィート/ポンド 5.5
E(tot)フィート/ポンド 7.9
E(tot)のE(max)に対する比 1.44